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仙台高等裁判所 昭和43年(ネ)349号 判決 1969年5月28日

控訴人 福島県米穀肥料協同組合

右代表者代表理事 松崎政一

右訴訟代理人弁護士 竹内重雄

被控訴人 山本商事株式会社

右代表者代表取締役 山本常次郎

右訴訟代理人弁護士 勅使河原安夫

<ほか一名>

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金五〇万一、七一七円を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び立証関係は

一、控訴代理人において

控訴人が訴外株式会社東邦銀行より譲受けた本件根抵当権設定契約によれば、右訴外銀行は訴外山口恒十郎との間で右根抵当権を設定する以前に債務者である右訴外山口恒十郎が振出し、右銀行が所持する約束手形債権をも被担保債権とすることを約した。従って控訴人が根抵当権の譲渡を受ける以前に控訴人にあてて振出され、現に控訴人が所持する甲第一号証の一、二の約束手形金(前者は昭和三九年一二月一五日振出、後者は同年一一月三〇日振出)は当然本件順位一番の根抵当権の被担保債権となるのみならず、振出人らもこれを承諾したものである。従って被控訴人より優先順位において弁済を受けえられる筋合である。

と述べ、

二、被控訴代理人において

本件根抵当権設定に際して基礎となるいわゆる基本契約は「昭和二六年六月二〇日根抵当権設定」として登記されていたが、昭和三九年一二月三日右登記原因を錯誤を理由として「昭和二六年六月二〇日手形取引約定についての同日設定契約」と更正する旨の登記が附記登記の方法によりなされていることから明らかなように、前記訴外銀行と訴外山口恒十郎間の手形取引契約(手形貸付、手形割引、手形保証等)とみるべきである。

従って右根抵当権によって担保される範囲は右基本契約すなわち手形取引契約より直接又は関連して発生する債権に限られ、基本契約と無関係な債権はこれに含まれない。

控訴人は昭和四一年九月二四日前記手形取引契約を承継し、これを原因として同年一〇月六日付で右根抵当権の移転登記をしているのであるから、承継移転された根抵当権によって担保される範囲は承継した根抵当権設定の基本契約である手形取引契約に基づいて発生する債権に限られ、それ以外の債権は担保されないことは明らかである。

ところで本件二口の手形債権は右基本契約とは無関係に発生したものである(このことは右各手形自体の振出日の記載から明らかである)から本件根抵当権によって担保されない。

と述べ(た。)

立証≪省略≫

理由

一、訴外山口恒十郎がその所有にかかる原判決添付目録記載の不動産(以下本件物件という)につき昭和二六年六月二〇日訴外株式会社東邦銀行との間に同銀行との取引契約より生ずることあるべき債務の担保とするために控訴人主張のような順位第一番の根抵当権設定契約を締結し、同月二二日その登記手続を経由したこと、その後昭和三二年一月五日右訴外山口恒十郎において同人と被控訴人との取引契約より生ずることあるべき債務のために本件物件に対し控訴人主張のような順位第二番の根抵当権設定契約を締結し、同年三月一一日その登記手続を経由したこと、控訴人が昭和四一年九月二四日訴外銀行より訴外山口恒十郎の承諾の下に同銀行と右訴外人との間の前記取引契約を承継するとともに右第一順位の根抵当権の移転を受け、同年一〇月六日その登記手続を経由したこと、ところで被控訴人においては前記根抵当権に基づき本件物件につき競売を申立て、右事件は福島地方裁判所会津若松支部昭和四一年(ケ)第四四号事件として係属し、控訴人主張のような経緯で競落され、その結果競落代金より競売費用を差引いた金五〇万一、七一七円が全額被控訴人に配当されたことはいずれも当事者間に争いがない。

二、そして≪証拠省略≫によれば、訴外山口恒十郎と東邦銀行との間の根抵当権設定手形割引契約は同契約書第一条により、「山口恒十郎は東邦銀行に対して手形上の債務を負担することを約し、金一〇〇万円を元本極度額とすること、前項の手形は山口恒十郎の振出、引受、参加引受、裏書保証にかかる手形で現に右銀行の所有に属し又は将来所有に属すべきものに限り、云々」と記載されている。ところで根抵当権の譲渡があった場合、被担保債権を決定する基準はそのままで譲渡されるので、譲受人は譲受けた後にその基準に適合した債権を取得して根抵当を利用しうるのみでなく、基準に適合した債権をすでに有するときはそれをも被担保債権となしうるものというべきところ、≪証拠省略≫によれば、控訴人は訴外山口恒十郎に対し振出人同人外二名名義の約束手形二通を所持していることが明らかであり、これは前記手形取引契約にいわゆる山口恒十郎の振出しにかかる手形で担保権者の所有する手形に当るものと認められるから右各手形債権は本件根抵当によって担保さるべきものと認められる。

三、そして成立に争のない甲第二号証(登記簿謄本)に記載されている本件根抵当の登記原因「昭和二六年六月二〇日手形取引約定についての同日設定契約」という文言によれば、右設定契約当時既に前記銀行の所有に属していた手形債権を含むものと認められ、右担保権者たる銀行の地位はそのまま控訴人によって承継されたものと認められるから、控訴人はその主張の債権が本件根抵当によって担保されることをもって第三者たる被控訴人に対抗しうるものというべきである。

四、被控訴人は本件手形債権は基本契約と無関係に発生した(そのことは手形振出日の記載から明らかである)というが、手形振出の日が根抵当権譲渡以前であるような場合でも、それが譲渡以前の設定契約に合致している限りは、なお設定契約に基づいて発生した債権というに妨げないことは前記二において述べたとおりであるから被控訴人の右主張は理由がないといわなければならない。

五、被控訴人の根抵当権設定契約の承継は無効であるとの主張について

根抵当権はある時点において被担保債権が弁済によって存在しなくなってもこれにより消滅するものでない。このことは根抵当が現在及び将来にわたって生ずることあるべき債権の担保たる性質上明らかである。東邦銀行において根抵当権譲渡当時、右根抵当によって担保さるべき債権がなかったとしても、その後生ずべき債務のために根抵当権は依然として存続するのであり、承継さるべき何物も存せず、その承継契約が無効であるというようなことにはならない。被控訴人の主張は採るをえない。

六、被控訴人の仮定抗弁(詐害行為の主張)について

しかし、本件取引契約の承継並びに根抵当権の移転が詐害行為に当るものと認むべき証拠はないので右主張もまた採用できない。(後順位の根抵当権者は先順位の根抵当権者の有する債権極度額の枠内の分については先順位者が優先して弁済を受ける権利を認めなければならない建て前であり、従ってまた先順位の抵当権の譲渡が認められる以上これが譲受人により優先されることも認めざるをえない筋合であり、これによって自己の権利が害されたというのは当らない。)

七、ところで前述のとおり控訴人は第一順位の根抵当権者であり、被控訴人は第二順位の根抵当権者であるから、控訴人は最初に本件物件の競落代金につき配当を受くべきであり、被控訴人が控訴人に先立って金五〇万一、七一七円の配当金の交付を受けたのは法律上の理由がなく利得をえ、同額の損害を控訴人に与えたことになるので被控訴人に対し右金員の返還を求める控訴人の本訴請求は理由があるというべきである。従って右と結論を異にする原判決は失当で取消を免れない。よって民事訴訟法第三八六条により原判決を取消し、訴訟の総費用につき同法第九六条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長判事 村上武 判事 松本晃平 伊藤和男)

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